2007年7月
| 書 名 | 分裂病と人類 |
| 著者名 | 中井久夫 |
| 出版社名 | 東京大学出版会(1982年;新版:2013年) |
精神病のひとつ、統合失調症(分裂病はかつての呼称)は、常人には共感的にも知的にも理解困難な心の病です。しかし、人間に固有なこのような病(実際、動物は精神病にはなりません)について知ることは、人間という存在一般の隠された秘密に接近する第一歩となるでしょう。本書は、こうした点で他のいかなる精神医学の本とも異なった、人間論的展望を与えてくれる統合失調症論です。著者・中井久夫が、分裂病親和性の中核を「もっとも遠くもっとも微かな兆候をもっとも強烈に感じ、あたかもその事態が現前するごとく恐怖し憧憬する」傾向と捉え、それは狩猟社会においては適応的な能力であったが農耕社会への移行とともに一つの病となった、と論じたとき、私は初めて人類史的な視点からこの病を理解できたような気になりました。また、私たち健常者の中に隠されてあるものとの連続性の中で、この病が捉えられることを教えられました。本書の初版は1982年ですが、未だに画期的な統合失調症論としての地位を失ってはいません。
中井久夫はエッセイストとしても、ギリシャ詩の翻訳家としても、一流の仕事をしています。『家族の深淵』『アリアドネからの糸』『樹をみつめて』(2006年)などのエッセイ、最近では『兆候・記憶・外傷』(2004年)という論文集もお奨めです(いずれも、みすず書房)。
