2008年1月

書 名 娘時代
著者名 ボーヴォワール
出版社名 世界の文学セレクション36,コレット/ボーヴォワール

中央公論社,1994年

 

この12月初旬、4年半ぶりにパリを訪れ、セーヌ左岸のサンジェルマン・デプレにあるパリ第5大学に隣接する古い教会内の宿舎に滞在しました。奇妙なことに、私の宿泊した部屋は、ウクライナからの移住者が集う礼拝堂の真上に位置し、大学がなぜこんな建物の中にゲスト用の宿泊施設を所有しているのか、不思議でなりませんでしたが、おかげでパリの中でもっともパリらしい地区のど真ん中で1週間を過ごすことができました。

サンジェルマン・デプレと言えば、1940年代後半から50年代にかけて、第二次大戦後のフランスの知的エリートたちが、中でもサルトルやカミュといった人々が、そこここのカフェに集い、実存主義をはじめとする新思潮を世界に発信した場所として知られています。1960年代半ばに高校生だった私は、仏文科出身の若い国語の教師に刺激されて、こういった新しい流れに属するフランスの文学・思想系の本をわけもわからず読み漁りました。その中で、今も最も印象に残っている本が、ボーヴォワールの自伝的作品『娘時代』です。

ボーヴォワールは、『第二の性』という作品によって、今ではフェミニズムの祖としてしか振り返られなくなっていますが、当時はサルトルと共に実存主義をリードする作家として有名でした。『娘時代』の原題は“Memoire d’une jeune fille rangée”で、直訳すれば「お行儀のよい少女の物語」ということになるでしょうか。パリの由緒ある家庭の子女として生まれ育ったボーヴォワールが、その出身階層の慣習やモラル、宗教からどのように自分を解き放ち、自分の頭で考え自立する女性になっていったかを、この本は詳細に語っています。生まれも育ちも文化も違う日本の田舎の高校生には、この本に描かれるボーヴォワール自身の知的遍歴や知的サークルでの人々との出会いは、なにやら手の届かない遠い世界の夢の中の出来事のように感じられました。しかし、それが自伝であるということが、私自身の生きる世界とは別のところに夢でなく、「自由な精神の世界」の現実に存在することを担保しているようにも思え、私はそれに激しく憧れました。

ボーヴォワールは、『娘時代』に続き、『女ざかり』、『ある戦後』、『決算のとき』という自伝四部作を書いています。全部併せれば、世界でもっとも長い自伝作品かもしれません。なお、ボーヴォワールは1908年1月9日に生まれました。今月で生誕100年となります。

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Yoshinobu Kato

最近、「らじるらじる」というNHKラジオ番組を聴いています。お気に入りは「大竹しのぶのスピーカーズ・コーナー」と「高橋源一郎の飛ぶ教室」です。

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